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院長メッセージ

『知床観光船事故から学ぶ事』

2022年5月

 令和4年4月23日、海水温5度以下の海で、この環境に耐える「救命いかだ」さえ搭載していない観光船が沈没するという悲惨な事故が発生しました。医学的にこの水温の海につかった場合、30分以内に意識を失うと言われています。地理的に波の荒い場所で上陸点もなく、しかも海難救助拠点から遠い地域であることを考えると、船に異常が生じれば直ちにこのような事故につながる事は想像に難くない状況です。乗客が感じた恐怖と無念さ、残されたご家族の大きな喪失感を想像すると身震いする思いです。早急な乗員全員の発見と原因究明および適切な対策が講じられる事を願います。
 報道によると、この事故の3日前に国土交通省の検査を通ったという衝撃的事実があります。事故後に多くの問題点が指摘されたこの船及び管理会社の対応が、国として問題ないと判断されたという事です。体力が持つ限り海上で生存できる暖かい海と短時間しか生存できない冷たい海の基準が同一というのも違和感があります。業界優先、営利優先の結局とも指摘されています。今後もこの事故を忘れることなく、捜査や国の対応を注視したいと考えています。
 ところで、労働災害には「ハインリッヒの法則」というものが知られています。「一件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害、そして300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)がある」というものです。つまり重大事故・災害の防止のためにはヒヤリ・ハットの段階で対処していくことが必要という内容です。今回の事故も軽事故(船体損傷)や出港後引き返す等の軽微な事故やヒヤリ・ハットが報告されています。残念ながらこの教訓は生かされなかった様です。
 病院はこの事故と異なり院内で適切な医療事故分析を行っています。当院には医療安全管理部門があり、専従者(看護師長)が日々活動しています。また病院全体として積極的な事故やヒヤリハット等のインシデント(出来事)報告を奨励しています。昨年度は2429件の報告がありました。これを適切に分析し業務や業務プロセスの改善を実施しています。特に患者さん方に影響を及ぼす重大な医療事故については、関係者による臨時の医療安全会議を開催し、原因および改善点を探り再発防止を目指しています。
 さらに病院はその機能に関し、医療法25条に基づく行政(横浜市)による立ち入り検査が毎年実施されています。この検査では、今回の事故とは異なり、医療安全管理体制や院内感染対策、医薬品管理体制、医療事故防止策等の確認、勤務環境改善や検査関係の適切な取り組み等について厳しく評価されます。
コロナ前まで、当院は横浜市から高い評価を受けていました。今年も高い評価を得るよう努力します。さらに知床観光船事故を他山の石として、安全対策を一層強化する所存です。
本年度も当院をよろしくお願いいたします。



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